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大阪地方裁判所 昭和38年(ワ)2147号 判決 1964年6月15日

原告 大同繊維工業株式会社

被告 大阪府

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、申立

原告は、「被告は原告に対し三三二、四四三円を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決及び担保提供を条件とする仮執行の宣言を求め、被告は主文同旨の判決を求めた。

第二、原告主張の請求原因

一、原告は昭和二四年五月二一日、同二三年一〇月一日より同二四年九月末日迄の事業年度の法人税につき所得五四一、一四一円九一銭と申告したところ、大阪福島税務署長は同二六年六月二〇日原告の代表者個人の預金四六六、六八二円及び増資金員二、二〇〇、〇〇〇円を原告の所得と誤認して更正処分をしたので、原告は右更正処分取消の訴を提起したところ、同三七年一二月四日大阪高等裁判所において右更正処分を取消す旨の判決がなされ、この判決は同三七年一二月二二日確定した。

二、原告は右更正処分による所得額により右事業年度の法人事業税として、同二七年九月五日二〇、〇〇〇円、同一二月一日五〇、〇〇〇円、同三六年三月三〇日一、九八〇円を被告に納付していた。被告はこれを返還せねばならなくなり、同三八年二月二六日原告に対し右納付事業税合計七一、九八〇円と、これに対する納付の翌日より同三〇年七月三一日迄の期間は日歩四銭、同三〇年八月一日より右還付の日迄の期間は日歩三銭の割合により計算した延滞損害金計八六、四四七円を付して返還した。

三、しかしながら、このように法人税の更正処分が取消されて既に納付された税金を返還するときは、徴収本税に損害金即ち延滞利子を付加すべきである。このことは、取つたときに取るのであれば返すときにつけて返すのが当然であることからも明かであり貸金債権に損害利子を付加して支払うのと同一法理にもとづく。そして右の延滞利子または延滞金は、国税徴収法等の過誤納金による還付加算金とは異るものである。なぜならば、右に言うところの過誤納金とは官公署がその徴収金を誤るか、納税者自らが納付を誤つた場合の徴収金を指すもので、本件のごとく税務官庁のなした更正決定が判決により取消された場合は、徴収としては間違つたところはないので過誤による納税ではなく、過誤納金ではないからである。

そして右の延滞利子または延滞金の額は、納付税額に対し、納付の翌日から還付の日迄の全期間について、納付した税の属する事業年度に施行されていた法による延滞金の率により算出すべきものである。

これは徴集するときにそれだけの延滞金を徴収するのであるから公平上返還するときもこれと同率の損害金を付すべきであるし、原告はその率による損害金を付せられる権利を同二三年に取得した以上その後法規が改正されても原告のこの既得権は奪われることなく改正された法規も遡及して適用されるものではないからである。

そして同二三年八月五日発布の大阪府条例によれば同二三年度の事業税に関する延滞金は日歩二〇銭と定められていたからこの割合により計算すると付さるべき延滞損害金は四一九、一一〇円となる。しかし被告より前記のとおり八六、四四七円の支払があつたからこの差額の三三二、四四三円の支払を求めるため本訴に及んだものである。

第三、被告の答弁

一、請求原因一の事実は不知。

二、請求原因二の事実は認める。

三、請求原因三の主張は争う。

原告の主張するような場合には過誤納金の還付に該当し、その際は還付加算金を付することになつているが、これは徴収金滞納の場合に付される延滞金とは異る。

本件の場合に還付すべき還付加算金の算定は次のとおりである。

原告の過誤納にかゝる地方税は昭和二四年度分である。昭和二四年度の地方税についての還付加算金に関する法規は立法の過誤により存在しない。この場合民法の不当利得の規定を適用するのは租税制度が公権力の行使にもとづく関係であることよりして相当でなく、法の欠缺として加算金を付さないとするのも不相当である。租税体系を一貫する租税法律主義の原則租税衡平の原則に基き統一的な解釈を行うべきである。本件の場合は法の衡平、法秩序の維持の立場より、同二三年度分に適用される地方税法(同二三年法一一〇号)二六条二項を適用し国税の例によるべきものと考える。そして国税についての還付加算金の割合及び根拠法規はつぎのようになつている。

イ、同二三年七月七日から同二五年三月末日迄一〇〇円につき一日一〇銭の割合、所得税法の一部を改正する法律(同二三年法一〇七号)

ロ、同二五年四月一日より同三〇年六月末日迄同一日四銭の割合、国税徴収法の一部を改正する法律(同二五年法六九号)

ハ、同三〇年七月一日より同三七年三月末日迄同一日三銭の割合、国税徴収法の一部を改正する法律(同三〇年法三九号)、国税徴収法(同三四年法一四七号)

ニ、同三七年四月一日以降同一日二銭の割合、国税通則法(同三七年法六六号)

右の割合により過誤納金が納付された日の翌日より支払決定をした日迄の期間に応じ計算し、還付加算金を算出すると、その額は現に支払われた額より少く、かえつて原告より一部返還を受けねばならぬもので、原告の請求は理由がない。

なお原告の挙げる条例は還付加算金でなく延滞金に関するものであるから、本件に関係なく、又還付加算金の制度が独立して存在する以上、延滞金と同率の金額を付すべきであるとの主張も理由がない。

第四、証拠<省略>

理由

一、原告主張の請求原因一の事実は成立に争いがない甲一号証及び弁論の全趣旨によりこれを認めることができ、請求原因二の事実は当事者間に争いがない。

二、ところで、地方税法(昭和三六年法七四号)一七条、一七条の四の過誤納に係る徴収金、国税徴収法(明治三〇年法二一号昭和二三年法一〇七号)三一条の六、同法(昭和三四年法一四七号)一六四条、国税通則法五八条等の過誤納金に、原告主張のごとく、更正決定が判決により取消されたため過納となる金員を包含しないものと解すべき理由はない。けだし、過誤納に係る徴収金又は過誤納金とは、過誤による納金の意味ではなく、地方税法(昭和二五年法二二六号)一八条が過納または誤納に係る徴収金と定めるごとく、過納または誤納に係る納付金の意味と解されるところ、過納とは、客観的に存在する納税義務の範囲を超えた納付の意味と解される。そして、税務官庁である国または地方団体の機関が右義務の存在ならびに範囲を認定して課税又は申告による税額を更正し、または自らその判断の誤りを認めて新たな判断を下してした処分は、更に行政上の不服申立手続により上級庁の判断に服し、最終的には右処分につき取消しうべき違法があるか否かの抗告訴訟を通じて裁判所の関係行政庁を拘束する判断を受け、右各判断は記載の順次により順次客観性を高めたものとされる。したがつて、法人税更正決定取消の確定判決により既に納付ずみの申告額以上の法人税が過納となつた場合は、これと課税標準を同じくする事業税についても過納法人税に応じて既に納付された分は過納となつていることは充分推測される。このことをしんしやくした地方団体が自ら先になした認定を誤りと認めて事業税についても法人税過納分に応じた納金を返還しようとするときには、これを過納に係るものあるいは過誤納金と言うになんらの妨げもない。

三、そして、本件過誤納金については、前記法令の適用または少くとも準用によつて公法上の請求権たる還付加算金の請求権が発生することは言うまでもないところ、原告主張の権利が、私法上の権利とするならば公権力関係である租税法律関係にもとづいて生じた結果の調整について、これと異なる性質の私法原理を適用することは体系上の一貫性を欠くし、公法上の権利とするならばとくにそうしなければ公平を欠くなどの特別の事情のない限り原則として法令上の根拠なくしてこれを認める必要もないから、右還付加算金の請求権と別個に、またはこれに加えて原告主張の延滞利子ないしは延滞金の請求権を是認することはできない。

そうすると、還付加算金請求権と異なる請求権の存在を主張してその履行を求める原告の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がないから失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 前田覚郎 野田殷稔 井関正裕)

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